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横浜地方裁判所 昭和58年(わ)339号 判決

裁判所書記官

内山三男

本籍

東京都足立区千住仲町四五番地の一

住居

神奈川県川崎市多摩区登戸三三五五番地

産婦人科医師

鈴木幸二

大正一四年三月一七日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官久我逸夫出席のうえ審理をとげ、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年六月及び罰金四、〇〇〇万円に処する。

本裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、肩書住居地において、「鈴木産婦人科医院」の名称で産婦人科医業を営んでいるものであるが、同医院経理担当者妻鈴木京子と共謀のうえ、所得税を免れようと企て、診療収入の一部を除外する等の方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和五四年分の実際の総所得金額が一億二、三五六万八、七四二円で、これに対する所得税額が七、四〇九万四〇〇円であるにもかかわらず、同五五年三月一五日、神奈川県川崎市高津区溝口四〇六番地所在の所轄川崎北税務署において、同税務署長に対し、同年分の総所得金額が三、八一七万三、七三五円で、これに対する所得税額が一、三八四万一、〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により所得税六、〇二四万九、四〇〇円を免れ

第二  昭和五五年分の実際の総所得金額が一億二、一九八万三八四円で、これに対する所得税額が七、二九七万四、六〇〇円であるにもかかわらず、同五六年三月一六日、前記川崎北税務署において、同税務署長に対し、同年分の総所得金額が三、七一九万二、八九九円で、これに対する所得税額が一、三一〇万七、六〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により所得税五、九八六万七、〇〇〇円を免れ、

第三  昭和五六年分の実際の総所得金額が八、八八九万八、一八三円で、これに対する所得税額が四、八〇〇万五、五〇〇円であるにもかかわらず、同五七年三月一五日前記川崎北税務署において、同税務署長に対し、同年分の総所得金額が四、〇一二万一五四円で、これに対する所得税額が一、四九一万四、九〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により所得税三、三〇九万六〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示各事実につき

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書二通及び大蔵事務官に対する質問てん末書一〇通

一  被告人及び鈴木京子作成の申述書

一  被告人作成の申述書三通及び証明書一通

一  大蔵事務官作成の告発書

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書説明資料二通、収入調査書、福利厚生費調査書、給料賃金調査書、研究研修費調査書、謝礼金調査書、専従者給与調査書、専従者控除調査書、不動産所得賃貸料調査書、不動産所得租税公課調査書、不動産所得損害保険料調査書、不動産所得減価償却費調査書、不動産所得借入金利子調査書、不動産所得支払手数料調査書、不動産所得支払管理料調査書、不動産所得青色申告控除額調査書、利子所得調査書、源泉徴収税額調査書、租税公課調査書(その他所得)、水道光熱費調査書(その他所得)、接待交際費調査書(その他所得)、損害保険料調査書(その他所得)、減価償却費調査書(その他所得)、利子割引料調査書(その他所得)、賄費調査書(その他所得)、諸会費調査書(その他所得)、雑所得調査書(その他所得)、現金調査書、預金調査書、たな卸商品調査書、未収入金調査書、貸付金調査書、委託証拠金及び清算金調査書(京子勘定)、土地建物調査書、建物附属設備調査書、什器・備品調査書、車輌調査書、有価証券調査書、出資金調査書、ゴルフ会員権調査書、宝石調査書、和服、毛皮及び漆器等調査書、保証金調査書、仮払源泉所得税調査書、仮受金調査書、預り金調査書、未払費用調査書、借入金調査書、未払源泉税調査書、鈴木京子勘定調査書、(有)マコト勘定調査書、事業主勘定調査書、給与所得調査書及び総合短期譲渡所得調査書各一通

一  鈴木京子の検察官に対する供述調書二通及び大蔵事務官に対する質問てん末書一六通

一  木田満美の検察官に対する供述調書一通及び大蔵事務官に対する質問てん末書四通

一  佐藤健吾の検察官に対する供述調書一通及び大蔵事務官に対する質問てん末書二通

第一の事実につき

一  押収にかかる所得税確定申告書等(五四年度分)一袋(昭和五八年押第一六四号の三)

一  大蔵事務官作成の福利厚生費調査書(その他所得)、研究研修費調査書(その他所得)、脱税額調査書(検察官証拠請求番号一三六)及び所得税額計算書(昭和五四年分)

第二の事実につき

一  押収にかかる所得税確定申告書等(五五年度分)一袋(前記押号の二)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(検察官証拠請求番号一三七)及び所得税額計算書(昭和五五年分)

第三の事実につき

一  押収にかかる所得税確定申告書等(五六年度分)一袋(前記押号の一)

一  大蔵事務官作成の修繕費調査書、消耗品費調査書(その他所得)、脱税額計算書(検察官証拠請求番号一三八)及び所得税額計算書(昭和五六年分)

(量刑の理由)

本件は、前判示のとおり、多年にわたり、多額の脱税をした事案であって、その犯情は、極めて芳しくなく、被告人の刑事責任は、重いと言わなければならないが、被告人が深く反省し、本件捜査に進んで協力したこと、ほ脱した税金については、本件起訴にかかる分のみならず、昭和五三年分についてもすでに納付したこと、今後は、収入金についてはすべて領収証を発行する態勢を整えて再犯をしないことを期していること、その他弁護人が弁論において主張する諸般の情状をすべて考慮するときは、懲役刑については、刑の執行を猶予し、また、罰金刑については、求刑よりも減額するのが相当と認められる。しかし、前判示の脱税額にてらせば、弁護人主張のごとき一年未満の懲役刑及び三、〇〇〇万円未満の罰金刑では軽きに過ぎると考えられるので、主文のとおり量刑した。

(法令の適用)

法律に照らすと、被告人の判示第一及び第二の各所為は、いずれも昭和五六年法律五四号による改正前の所得税法二三八条一項、二項、刑法六〇条に、同第三の所為は、右法律による改正後の所得税法二三八条一項、二項、刑法六〇条に各該当するが、所定刑中、いずれも、懲役刑及び罰金刑を併科することとし、右は、刑法四五条前段の併合罪であるから同法四七条本文、一〇条により重い第三の罪の懲役刑に法定の加重をした刑期範囲内及び同法四八条二項により第一から第三までの各罪の罰金の合算額の範囲内において被告人を懲役一年六月及び罰金四、〇〇〇万円に処し、同法二五条一項により本裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予し、同法一八条により右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとする。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 奥村誠)

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